ベイダーたかはしの野球雑記

野球に関する様々な情報/雑感を発信します。

プロ野球観戦約款の改定に対して思うこと

0.まえがき

2024年9月2日、日本プロ野球機構(NPB)公式サイトより、

「試合観戦契約約款」の改定と「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」の施行

がアナウンスされました。この約款は2025年2月1日より施行されるそうです。

 

npb.jp

アナウンス直後からずいぶんとSNS等で話題になったこともあり、大半の方々は内容についておおよそ認識されているかと存じますが、筆者の本約款に対するざっくり理解としては以下の通りです。

 

  • インプレー中選手の写真動画は一切発信してはいけません
  • インプレー中選手以外の140秒を超える動画は発信してはいけません
  • 試合中は動画、写真に加え、試合データを発信してはいけません
  • 明らかに営利目的であれば、試合後でも写真や動画を発信してはいけません
  • 客席に収まらないような大きな機材で撮影してはいけません
  • 撮影時に他の観戦者の視界を遮るなど、迷惑行為をしてはいけません
  • 許可なく客や売り子などにフォーカスして撮影してはいけません

 

 ※ただし、以上の制限は、ホーム側運営が許可した場合は対象外となります

 

筆者の理解が及んでいない部分はあると思いますが、この約款、物議を醸して当然のヤバい代物です。何しろ、文面通りに捉えれば、SNSプロ野球に関する何らかの情報をアップロードしたことのあるファンの大半が、来年からはルール違反者になると言っているようなものです。試合中にスタジアム内の写真や試合データを発信した経験もなければ、インプレー中の選手が映り込んだ写真を発信した経験もないファンなんて、ごくごく少数派です。正直筆者も大いに困惑しています。

 

 

 

1.筆者がNPB向けに投稿した意見

今回の約款改定に大いに困惑した筆者は、とりあえずNPBに意見を送付することにしました。

みなさんもお時間があれば、思いの丈を意見として送付してみましょう。

npb.jp

 

なお、このNPBに向けた意見送付には400字の字数制限があります。

そのため、本当はもっともっと言いたいこともあるのですが、我慢して制限時数に収めるために言いたいことのいくつかをカットしています。また、つい長々とお気持ち表明しがちな筆者は、最終的に400字に絞ることに気を取られてしまい、思った以上に内容や文面が稚拙になってしまっています。いつも以上に見づらい文章を載せてしまい申し訳ないです・・・。

実際に私がNPBに送付した意見は以下の通りです。

 

 

 

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非公認のSNS発信に一定の制限があること自体は賛成です。

SNSの発達で一私人による情報発信が容易になり、結果大手メディアの機会損失が発生するなど、新たな課題が発生しています。

一方で、非公認SNSの情報発信には、プロ野球の魅力発信を豊かにしているという側面があり、この影響は無視できません。中継に載りきらないプロ野球の魅力がファンに届くのは、SNSの力が大きいです。

全てのSNS発信を肯定する気はないですが、SNS発信を規制するのであれば、公認の情報発信にもっと力を入れてください。

正直、NPB機構の仕事は、世界2位の野球リーグの位置を守るためだけのものに思えます。情報発信も弱く、球団やメディア任せで、機構として野球の魅力発信はできていない印象です。

NPBが世界一のスポーツコンテンツを目指す気があるのなら、非公認の発信が不要になるくらい、情報発信も世界一を目指してください。

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2.約款に対する解釈

さて、今回の約款に対する解釈ですが、現在のところ定まったものはありません。SNSの反応および筆者の感性によると、大きく分けて3通りあると考えています。

 

  1. 約款に抵触するすべての行為が罰則の対象となる。(全処罰説)
  2. 約款に抵触する行為のうち、悪質なものが罰則の対象となる。(悪質処罰説)
  3. 約款に抵触する行為のうち、明らかに利目的で行っているものが罰則の対象になる。(営利処罰説)

 

法律解釈に関する学説みたいにまとめてみましたが、どの解釈を取るかによって、来年からのファン行動は大きく異なってきます。

なお、筆者は「2.悪質処罰説+3.営利処罰説」の合わせ技ではないか、と解釈しています。(というか、せめてそうであってほしい)

 

【全処罰説】

最もファンとして受け入れ難いのは1の「全処罰説」ですこの解釈を厳密にとると、以下の行為でさえ処罰の対象になります。

 

【全処罰説における禁止行為の一例】

  • 球場を俯瞰した写真に「○○球場に来た!」というコメントを添えて、instagramのストーリーに投稿する行為
  • SNSに「○○選手、逆転ホームラン!最高!」と、端的な結果に短い感想を添えて投稿する行為
  • 匿名掲示板で「△△、160km/h連発とかえぐいな」と、投球内容に簡単に触れながら感想を述べる行為
  • X(Twitter)のプレミアムアカウントが球場内の写真を投稿する行為すべて

 

改めて言いますが、これだと世のプロ野球ファン大半が、ルール違反経験者になってしまいますプロ野球の試合に対するリアルタイムな反応を一切行えなくなるということで、時代は2ちゃんねる誕生以前の約30年前に逆戻りです。さすがにここまで厳密に適用するわけではないと信じたいものの、絶対にないとは確信できないうえ、結局どこがルール違反のラインなのかわからず、戦々恐々としているファンは多いかと思います。

 

 

【悪質処罰説】

ファンの多くが「こうあってほしい」と願う解釈が、2の「悪質処罰説」です。

近年、野球観戦記をアップする動画投稿者や、選手にフォーカスを当てて撮影した写真をあげるSNS投稿者が増加しており、中には10万を超えるファンに支持を得ている投稿者も存在します。(私も「かきこきチャンネル」の動画を欠かさず見ています)

しかし、こうした投稿者への注目度が高まれば高まるほど、彼らがモラルに欠ける行為をした際に大きなトラブルにつながってしまいます。某モレルさんと競リーナさんの件は記憶に新しいですね。(ここではこの件は掘りません)

また、球場で撮影第一になるあまり周囲への注意を顧みない方、バズりたいがゆえに選手のミスの瞬間を面白半分でアップロードする方も、球場やSNSで散見されます。

こういった他者への迷惑を考えずに情報発信を行うような、いわば短慮な投稿者を処罰する根拠づけとして本約款が制定されたのであれば、良識あるファンとしては歓迎すべきでしょう。一部スポーツ紙には、この悪質処罰説に近い解釈で本約款が運用される、と書かれていた気がします。

 

 

【営利処罰説】

2とやや重複しますが、営利性の高い情報発信については重点的に処罰の対象になるのでは、と個人的に考えています。(営利処罰説)

いわゆる有名投稿者の中には、コンテンツ投稿によって得られる収益を生活費の一部として過ごしている方がいらっしゃいます。そういった方々は往々にしてハイクオリティなコンテンツを提供しているものですが、それは大手メディア等の既得権者から見れば、「非公認のグレーな手段で我々の顧客獲得の機会を損失させている!」と映っていても不思議ではありません。

YouTube等で流行っている観戦配信がそのいい例です。観戦配信は、一球速報形式の画面を映し出しながら配信者が実況解説等を行うことで、ファン同士の交流がより深まるなど、他の中継形式にはない魅力があるコンテンツです。筆者も時には中継と同時に観戦配信を視聴したり、自動車での移動中にラジオとして観戦配信を流したりすることがあります。

しかし、それはファン目線であれば魅力的でも、もともと放映権等を得ている大手メディアから見れば排除したい存在にすら映っているかもしれません。テレビ/ラジオ/公認配信サービスから見れば、観戦配信の存在が視聴者数ダウンにつながっていると捉えるでしょうし、Yahoo一球速報から見れば、サイト/アプリにアクセスされる機会を失わせているものと考えるでしょう。

SNS等を通したプロ野球情報発信という文化は、時代と共に発達してきました。これはファンとしては大変喜ばしいことですが、同時に既得権者としても無視できないレベルまで大きくなったということです。今回の約款は、営利性の高い(≒クオリティの高い)非公認コンテンツにメスを入れることも目的としてあるのではないでしょうか

 

 

3.NPBへの意見 ①約款について、いち早く説明の場を設けるべき

ということで、ここまで本約款に対する解釈について紹介してきましたが、そもそもファンをいたずらに不安にさせ、解釈を揺れさせてしまっている最大の要因は、NPB公式の約款発表の仕方に問題があるからです。

2023年のプロ野球公式戦全試合における観戦者数が約2,500万人(延べ人数)でした。また、なんだかんだでテレビ等のメディアでは毎日のようにプロ野球の情報が流れており、スタジアムに行けずとも日々プロ野球に関心を寄せる方々は、未だ大勢います

何度も言いますが、これだけ多くの人数がいるプロ野球ファンの大半がルール違反者になるかもしれない、そんな重要な約款改定に関するリリースを、新規定の条文と改変箇所を淡々とホームページに載せるだけで済ませてしまうはっきり言って、NPBにはファンに寄り添おうというやる気を感じません

ファンを不安にさせてファン離れを起こすためにこういった発表の仕方をとったのではないか、とすら思えてしまいます。

 

もし、NPBがファンに寄り添う気があるのなら、記者会見等説明の場をきちんと設け、制定の目的を宣言したうえで、具体例を示しながらかみ砕いた説明を行うべきです。

また、公式サイトもただただ約款の条文を淡々と載せるだけでなく、OK例、NG例を図示するなど、一目で情報を得やすいページの作りにするべきです。Xのポストを通じて拝見しましたが、Bリーグの観戦規定のページは比較的わかりやすかったので、せめてこのレベルで情報掲載をお願いします。

 

www.bleague.jp

 

 

4.NPBへの意見 ②約款制定の過程で、ファンの声にも耳を傾けるべき

この約款制定のプロセスで、良識あるファンからの意見に耳を傾ける気があったのかも、大いに疑問が残ります。

先ほども述べましたが、SNSの発達により、テレビ/ラジオ/公認配信サービス等の利益が損なわれたり、選手のプライバシーを不当に傷つけていたりするケースがあるのは事実です。ですから、SNS投稿について一定の制限を加えること自体は否定しません。

しかし、SNS投稿に制限を加えるルールを作る中で、良識あるファンの意見も踏まえて多角的な意見を取り入れながら落とし所を探った結果が、この約款なのでしょうか?もし仮にファンの意見を取り入れながらこの約款を制定したのであれば、その制定プロセスもきちんと説明すべきです。もっとも、リリース直後からファンの猛反発を受けていますし、NPBが本件に関してファンに意見を募ったなんて話も聞かないので、真っ当なプロセスを踏んだ可能性は非常に低いと思いますが。

 

ファンの意見をすべて受け入れろ、などと言うつもりはありません。しかし、プロ野球という興行においてファンは重要なステークホルダーの1つであり、ましてや今回の約款はファンの行動に直接的に関わる内容ですファンの意見に耳を傾けながら検討を重ねることが、当然あるべき形です。この当たり前にやるべきことができないのが、今のNPBなのです。

 

 

5.NPBへの意見 ③機構としてもっと主体的にプロ野球の魅力を情報発信すべき

プロ野球の魅力を作り上げているのは、いったい誰なのでしょうか

それは、世界最高峰のレベルで日々戦い続ける選手たちです。また、彼らを支えるスタッフ陣球団運営チームやメディア競技に理解のあるスポンサー等も、プロ野球の魅力向上に寄与している方々だといえます。

ですが、NPBについていえば、プロ野球の魅力作りに貢献している側面はほとんどありません。「NPBのおかげでプロ野球がより楽しくなった!」なんて話、聞いたことがありません

現在NPBが扱っている情報は、日々の試合記録、各種成績、各種アワード、公示情報、代表チーム関連、など、それなりに多く存在します。ですが、これらの情報のほとんどは非常に淡白としたデザインで掲載されているのみです。筆者のようなある程度ニッチなファンこそ時折閲覧するかもしれませんが、一目見て「プロ野球って面白そう!!」と思わせられるような作りではありません。公式SNSも同様で、日々のポストは無味乾燥としたページの更新をリリースするのみで、プロ野球の魅力という意味では何も発信できていません。

 

一方、MLB公式が運営するMLB.comは、このサイトさえ見ていれば筆者のような浅いファンはこれだけでお腹いっぱいになるほど、日々の試合や注目プレイヤーに関する情報などが、視覚的情報を含めが充実しています。ファン歴の深さにかかわらず、公式サイトだけでコンテンツの魅力が存分に伝わってきます

www.mlb.com

 

また、現状リーグ規模ではNPBに劣る韓国KBOも、日々のハイライトや好プレー動画などを発信しているほか、instagram等を用いて「映える」情報発信を日々行っています。NPBと比較するのがおこがましいくらいには、ふだんから魅力発信に力を入れています

www.koreabaseball.com

 

 

現状のNPBによる情報発信は、繰り返しですが何の面白みもないものばかりで、その先にいるファンを魅了する意図などほとんど感じません。日本のプロ野球情報を魅力的なものとして発信しているのは、あくまでメディアや球団広報、あるいは良識あるファンたちです。彼らによる情報発信があることをいいことに、NPBはあぐらをかき続けています。

 

もし、今回の約款の制定をきっかけに、ファンによる情報発信を縛り付ける方向に進むのであれば、ファンによる発信が全くいらなくなるくらい、プロ野球の魅力を伝えるための情報発信をもっともっと充実させてください。今や情報入手の一翼を担っているSNS発信を禁止するだけして、代わりに何もしないのであれば、それはただただプロ野球への間口を狭めただけになってしまっており、コンテンツの衰退でしかありませんNPBとして広報チームを大幅強化したり、発信力のあるファンを公式側に取り込んだりするなど、今すぐ方策を打っていただきたいところです。

 

 

6.NPBへの意見 ④日本のプロ野球文化を「発展させる」ために動くべき

今回の約款改定に限らない話ですが、いまのNPBは、日本で最大規模のプロスポーツコンテンツ、世界2位の野球リーグとしての地位を守る仕事しかできていない感が強いです。

幸いにも日本野球は競技レベルとして高いこともあり、この地位自体はよほどのことがない限り数年は保たれるでしょうが、だからといって現状維持でいいわけがありません

代表チームはつい昨年も世界一に輝きました。日本は熱気に包まれ、その後筆者もWBCをきっかけに野球に興味を持ったファンを何人も見てきました。それを受けて、なぜNPBMLBに追いつけ追い越せの強化戦略を取ろうとしないのか。結局のところNPBの検討はMLB新施策の後追いばかり(しかもそれであればまだマシなレベル)です。

他方、先ほども少し触れましたが、本来リーグ規模として小さいはずのKBOBリーグのほうが、むしろ競技の魅力発信などの活動を機構として精力的に行っており、新規ファンの取り込みに成功しています。こうした成長戦略を持てているリーグに、5年後10年後は逆転されているとしても、全く不思議ではありません。

世界トップクラスのスポーツコンテンツとして育ちうるポテンシャルを、日本のプロ野球はまだまだ持っているはずです。それを生かすも殺すも、日本野球の頭を張っているNPBにかかっています。選手のために、ファンのために、本気でプロ野球を発展させるための取り組みをお願いします。

 

 

7.NPBへの意見 ⑤自ら掲げたスローガンに沿って行動すべき

ここまでたくさんNPBへの意見(というかほぼ文句)を書いてきましたが、最後に、NPBが、自ら掲げたスローガンに沿って行動いただきたいという願いを込めて、こちらのページにも掲載させていただきます。

 

 

 

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熱中。熱狂。
万を超える人々が集まって
生まれるその熱を、もう我慢しなくていい。

その全力を、野球にぶつけよう。
応援にぶつけよう。

その瞬間を共有するみんなで生み出し、
分かち合う、野球にしかない熱がある。
やがて日々の熱量に変わる、
スタジアムにしかない熱がある。

その熱は、誰も制限できない。

 

npb.jp

 

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プロ野球観戦で生まれる熱を過度に我慢させようとしているのは、いったい誰か?

心動かされる瞬間をみんなに共有できないように抑制しようとしているのは、いったい誰か?

スタジアムにしかない熱を制限する方向で動いているのは、いったい誰か?

 

私はそう言いたいです。

 

あと、このスローガン、「2023年 NPBスローガン」として制定されたまま現在も最新のスローガンとして載っています。さすがに笑っちゃいました。

 

 

今回の記事は以上です。

長文にもかかわらず、最後までお読みいただきありがとうございました。